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連載 幕末・維新の桑名藩シリーズ 郷土史家 西羽晃(著)

幕末・維新の桑名藩シリーズ08
幕末桑名藩の財政難(1)

幕末の各藩とも財政難に苦しんでいる。幕末桑名藩の財政状況の全体は不詳だが、苦しい状況の一端を紹介する。

文政6(1823)年松平定永は白川から桑名へ移封となった。その費用や先代の松平定信の子どもたち(実子9人、養子3人)の結婚費用などで、財政が大幅な赤字となった。そのため翌年には藩士に対して「お手伝金」として10年間の給料を知行高に応じて支給がカットがなされた(岩瀬文庫所蔵「桑名藩御触留」)。

10年経ったが、凶作にも見舞われ、財政難は一向に改善されず、商人からの借入(調達金)が増えた。天保7(1836)年5月には大坂商人の鴻池・升屋・千草屋から調達金(金額不明)を得ている。その担保として本年分の桑名米3万俵、分領の柏崎米1万石、来年分の桑名米2万俵、柏崎米1万石を約束している(西羽所蔵文書)。まだ収穫もしていない米を担保にしているのだから、財政難は余程深刻だったことを示している。
天保8年8月には津島の商人である渡辺又蔵を通じて犬山様(尾張藩家老の成瀬家?)に対して、桑名藩勘定頭格・佐藤孫太夫と同勘定頭・川越尚右衛門から金3万両の借金を申し入れている。利息は年に1200両(年率4%)、元金は5年後に返済、担保は年貢米の一定量とする条件である。仲介役の渡辺家にたいしては成功報酬として10%に当たる3000両の手数料を支払う(津島市・渡辺家所蔵文書)。なお佐藤孫太夫は桑名藩の御用商人であり、藩の勘定頭格に取り立てられていた。

天保10年10月1日から藩士に対する支給は3年間の人別扶持となった。人別扶持とは従来からの知行制(定額制)でなく、家族の人数と身分に応じての支給高に変わった。基本給は身分に拘わらず4歳以上の男子(若党中間を含めて)1人1日玄米5合、4歳以上の女子(下女を含めて)同じく4合、3歳以下は男女とも同じく3合である。付加給として身分と家族数に応じて支給額が加算され、さらに衣服料および屋敷修復料が身分に応じて加算された。高額所得者ほど支給額は大幅に減り、逆に低額所得者で家族数が多い者の中には増額になった者も居た(桑名市立中央図書館所蔵「秋山文庫文書」)。

このような処置をとったにも拘わらず、借金の返済に追われ、天保12年には期日に支払ができず、遅配も生じている。同年12月の年貢米納入は、藩の蔵でなく、山田家(桑名の富豪)の蔵に直接に納められている(『桑名日記』)。上述と同じく未収穫米を担保にして山田家から借入れをしていたのである。

藩では領内の商人や豪農に御用金や調達金をしばしば課している。形式的には命令であるが、実際はお願いである。商人や豪農にとっては個別に頼まれると断り難いし、お互いの金額の釣り合いも判り難いので、天保12年6月に「御内用会所」を組織している。これは桑名の商人たちが金を出し合い、まとめて一定額を藩に貸付け、毎年11月に利息を付けて返済してもらう組織である。もちろん臨時に必要な場合は臨時に資金を集めて、藩に貸し付けた。この組織は後の銀行と同じであり、明治になって桑名銀行として発展し、さらに現在の百五銀行桑名支店につながっている(佐藤義一郎「桑名銀行沿革略記」)。

天保13年に人別扶持は年限となり、元の知行制に戻ったが、その知行高に応じて支給カットがなされた。最高1900石取りは49.5%のカットで、約半分しか支給されなくなった。最低は3石2人扶持が5.2%カットされた。他にも凶作の場合の損毛引きが厳しくなった。2千石までの減収は藩が全部を負担し、2千石以上の分は藩と藩士で負担したが、今後は2千石以下でも全て藩が50%、藩士が50%を負担することになり、藩士各人は知行高に応じて負担した。ちなみに天保14年の損毛高は桑名領で1477石余、越後領で780石余で、合計2257石余であった(前掲「桑名藩御触留」)。

厳しい財政削減もあった一方、天保12年、13年と全国的に豊作となり、桑名藩の財政も余裕が出来た。天保13年12月には「当年ハ珍敷御用米蔵御扶持米蔵積切に相成候よし」(『桑名日記』)と藩の米蔵が満杯となり、14年10月には「未に古米有之」(『桑名日記』)と翌年の新米納入時に古米が残っている状況となった。大坂の鴻池家からの借金も天保13年末から5年間はゼロになっている(三菱東京UFJ銀行所蔵「鴻池家算用帳」)。 (2011.05.31)

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